キャッシュゲームでは1チップ=1ドルと明確な価値がありますが、トーナメントポーカーではそうはいきません。同じスタック量でも、残りプレイヤー数や賞金配分、順位によってその価値は常に変動します。これを数理的に捉えたのが「ICM(Independent Chip Model)」です。
特に重要なのが、“チップの価値は量に比例しない”という点。この記事では、ICMにおけるチップの価値がなぜ重要なのか、どう判断すべきかを具体例とともに解説します。
ICMとは?
ICM(Independent Chip Model)とは、トーナメントにおいて、プレイヤーが保持するチップの量に対する**賞金期待値(EV)**を理論的に計算するモデルです。
このモデルでは、全プレイヤーのスタック量と賞金配分を前提にして、「今そのチップがどれだけの現金価値を持つか」を算出します。
チップ価値は比例しない
トーナメントでは「同じ1000チップ」でも、その価値は以下のように変わります。
状況 | 1000チップの価値感 |
チップリーダー(100BB中の1000) | 小さい(損失に耐えやすい) |
ショートスタック(10BB中の1000) | 非常に大きい(生存に直結) |
つまり、ショートスタックの1BBは“命綱”のような価値があるのに対し、チップリーダーの1BBは“可処分資産”のようなものです。
チップの価値が「非線形」になる理由
ICMでは、1000チップを持っているプレイヤーが2000チップになったとしても、「チップ価値」は単純に2倍にはなりません。
逆に、1000チップしか持っていないプレイヤーが全損した場合、その損失のICM的価値は非常に大きくなります。
参考例:
- 5人残り・賞金$1000分配時(順位制)
- あなたがチップリーダーなら、1000チップ追加しても賞金期待値(ICM EV)はあまり増えない
- 逆にショートスタックが飛べば、残り全員のEVは上がる(生存が価値を持つ)
実戦への影響例
シチュエーション:バブル前(残り6人、5位入賞)
- あなた:ミドルスタック(20BB)
- BB:ショートスタック(7BB)
- BTNがあなたにオールイン(15BB)
→ GTOではコールすべき場面でも、ICMを考慮するとショートスタックが飛ぶまで待つ方が賞金EV的に得ということが多くなります。

実例:3人残り、賞金配分が1位50%、2位30%、3位20%のとき
プレイヤー | スタック | ICM価値(%) | 賞金期待値($) |
A(チップリーダー) | 50,000 | 45% | $450 |
B(中間) | 30,000 | 33% | $330 |
C(ショート) | 20,000 | 22% | $220 |
→ Cが失った5,000チップは、そのまま$22→$0になりうる大損失。
→ Aが失っても、依然として賞金圏内に残る可能性が高い=リスクは相対的に小さい。

チップ価値を意識したプレイのポイント
状況 | 取るべきプレイ |
ICM影響が強い(バブル、FT) | 無理にオールインしない・生存優先 |
相手がショートスタック | 攻めすぎず、彼らを飛ばすことでEV上昇を狙う |
自分がショートスタック | 自分のチップは貴重な「命」 → プッシュ判断が重要 |

ICM的に得なプレイ・損なプレイとは?
得なプレイ
- 他人の脱落を待つ(特にショートスタック)
- スタックを守り、生存時間を延ばす
損なプレイ
- ショートがリスクを取りすぎる(ICM的には損)
- 中間スタックが無理なコインフリップを受ける(順位が下がりやすい)
まとめ
ICMにおける「チップの価値」は、単なるスタック量とはまったく異なる基準で動いています。1BBの重みは、そのプレイヤーの立場や残り人数、賞金構造によって劇的に変化するのです。
これを理解せずにオールインを繰り返すプレイヤーは、期待値を大きく損なう可能性があります。逆に、ICMを味方につけて「守るべき時に守れる」プレイヤーこそが、最終的に賞金を持ち帰れるのです。