トーナメントポーカーでは、単なるチップ量だけでなく「賞金の期待値(Prize EV)」が勝負を分けます。その中でも重要な概念のひとつが「リスクプレミアム(Risk Premium)」。これは、ICM(インディペンデント・チップ・モデル)の影響下における“隠れたフォールド価値”とも言える考え方です。
この記事では、「なぜ弱いハンドでもフォールドすべきなのか?」「なぜ強いハンドでも慎重になるべき状況があるのか?」という疑問に答えながら、リスクプレミアムの本質と具体的な活用法を解説していきます。
リスクプレミアムとは?
リスクプレミアムとは、「自分が飛ぶ(バストする)リスクに対して上乗せされる、追加のEV損失」を意味します。
ICM下では、プレイヤーが脱落すると自分以外の残りプレイヤーの賞金EVが上昇します。つまり、自分のバストは他人の利益になり、それを避けるために通常よりも強いハンドが必要になるのです。
フォールドすべきハンドが増える理由
リスクプレミアムが高い状況では、以下のように戦略が変化します。
通常状況 | ICMリスクプレミアムあり |
AQoでオールインする | フォールドを選ぶ可能性がある |
99でコールする | QQ以上でなければフォールドも視野に |
A5sでスチールする | スチールしない(下位に影響大) |
リスクプレミアムが高くなる3つの状況
1. ファイナルテーブル前後(バブル)
→ 飛ぶと賞金がゼロ/極端に少ないため、最大級のプレッシャーがかかる。

ショートスタックが他にいるとき
→ 他のプレイヤーが先に飛ぶ可能性があるなら、自分は無理に戦うべきではない。

上位の賞金差が大きいとき
→ 3位→2位や2位→1位のジャンプが大きい場合、1回の判断ミスが致命的になる。

リスクプレミアムに応じた戦略調整
状況 | 戦略の例 |
ショートスタックが2人いる | AQでもフォールドすべき場面がある |
自分がチップリーダー | 相手にリスクプレミアムを押し付けられる |
BBでコールか迷う場面 | 通常よりも広いレンジでフォールド |
数値で見るリスクプレミアム(例)
例えば、ファイナルテーブル5人残りで…
- あなた:3位のスタック
- 相手:チップリーダー(あなたをカバー)
- あなたのハンド:JJ
- 相手がBTNからオールイン
ICM計算を行うと、この場面でコールに必要な勝率は**約50%**ではなく、65%以上に跳ね上がるケースがあります。これが「リスクプレミアムにより必要勝率が上がる」という現象です。

まとめ
リスクプレミアムは、ICM戦略を実践する上で避けて通れない概念です。チップEVだけを見ていては気づけない「隠れた損失」を可視化することで、よりEVの高い選択が可能になります。
- ✔︎ 自分の脱落=他人の利益であることを忘れない
- ✔︎ 強いハンドでもフォールドすべき状況がある
- ✔︎ 他プレイヤーとのICM状況を常に意識する
この思考を持つことで、ファイナルテーブルでの微妙な判断にも自信が持てるようになります。